コラム

【コラム第2回】給水槽(タンク)について(その1)

投稿日:2020年2月26日 更新日:

 こんにちわ。株式会社ジェス診断設計の力(ちから)です。

 前回は集合住宅で一般的な給水方式を4種類ほど挙げて、給水方式選定の際に重視するポイントなどを書いてみました。

 第2回は、給水装置を構成する水槽類について書いて行こうと思います。

 水を供給する機器で一番先に思いつくのは「水槽(タンク)」や「ポンプ」だと思いますが、それらにも機能や用途によって何種類かあります。
 まずは「水槽(タンク)」です。「受水槽」や「高置水槽(高架水槽)」が一般的だと思います。
 「蓄圧タンク」などの圧力タンクもありますが、今や少数派なので説明は割愛します。

 受水槽の場合、敷地の道路に面した場所や駐車場・駐輪場の隅に置かれている場合が多く、高置水槽(高架水槽)は屋上や塔屋に置かれています。


 受水槽は、水道局など水供給事業者から供給された水を「一時的に貯留しておく」ためのもの。
 規模が大きい建物や設計基準・条例・水理条件で直結給水が出来ない建物、水道局からの供給が途絶えて断水となった時の機能維持が求められる場合、受水槽を設置します。

 首都圏に於ける多摩ニュータウンのような、水を供給する配水管が太く供給水圧が高い「特例直結直圧給水方式 適用地域」以外では、平成15年頃から普及し始めた直結増圧給水方式が採用される以前、その地域の配水管への負荷を低減する目的で、ある一定規模の建物には必ず受水槽が設置されていました。

 戸建て住宅を含めた水使用ピークの時間帯でも、集合住宅では受水槽がバッファとなるため、水供給インフラに負荷を掛けない。ピークシフトしているようなイメージになります。
 受水槽方式は、限られた水供給インフラの能力で、集合住宅にも戸建て住宅にも安定的に水を供給する為に考えられた方法です。

 近年、配水管路の耐震化や集合住宅や給水人口の増加に対応する形で水供給インフラの整備も進んだ事から、直結増圧給水方式特例直結直圧給水方式(増圧猶予)が適用可能な地域も多くなっていると思います。

FRP製受水槽をステンレス鋼板製の受水槽へ更新
真ん中のドアのある空間には連通管・緊急遮断弁制御盤を設置

 受水槽容量10m³を超える設備は「簡易専用水道」として扱われ、水質や水槽の管理が求められますので、年1回の点検や清掃、水質管理が義務付けられています。「簡易専用水道」の届け出については、所轄保健所での受付となります。

 ピンと来た方も多いと思いますが、建物行政=国土交通省のイメージですが、水道行政は厚生労働省管轄なんです…ちなみに消防行政は総務省管轄です。


 平成20年以降は「直結増圧給水化改修ブーム」みたいな感があり、UR都市再生機構の公共賃貸物件でも民間物件でも、直結増圧化改修工事の設計・施工はかなりの物件で行われました。

 転機となったのは、首都圏でも広域断水が発生した「東日本大震災」。
 災害時でも水を利用可能にする給水装置、特に受水槽の設置についても見直され始めました。改修工事設計のオーダーもガラっと変わりました。

 災害時に必要とされる水量「飲料水:3L/人・日」「雑用水:25L/人・日」を管理組合がペットボトル等の備蓄で用意するのは困難です。
 受水槽の耐震化・緊急遮断弁による貯留水の流出対策・水分配ルールの策定・水質管理マニュアルの作成など…必要な準備を行っておけば、大規模な災害時でも公平な水利用や水の分配も可能となります。

 改修工事を計画される際は、防災対策も考えてみては如何でしょう…。


 高置水槽は重力式給水に用いられ、水を高い所に置いて落下エネルギーを与えるためのもの。ピーク時に安定的に供給出来る水量だけ貯水し、長時間の貯水は考えていません。
 一般的には、受水槽+揚水ポンプ または 直結増圧ブースターポンプと併用されます。

 高置水槽と直結増圧ブースターポンプを併用している建物は、給水管が未更新で耐圧試験をクリア出来ないなど、末端の供給水圧を変えたくない場合が多いです。

高置水槽やエレベーター機械室の入っている屋上・ 塔屋
屋上・塔屋に設置される高置水槽

  受水槽と同様に高置水槽の容量も、やたらと「大きくすればいい」わけでもなく、適切な容量設定が必要です。

 受水槽容量と同じような計算式を使用しますが…、
 目安としては「給水人口×時間最大給水量(25L/h)×0.5~1(時間)」

 100人が居住するマンションの場合、実容量で1.25 m³ ~2.5 m³くらいです。
 ※計算手法や時間最大給水量の設定値により多少異なります

 近年、加圧給水ポンプユニットの性能向上、直結増圧給水方式の適用範囲の拡大により、新築工事で高置水槽が設置されるケースはほとんど無いと思います。

 今の新築マンションは、マシンルームレス・エレベーターの採用で塔屋すら無いですし、構造設計上は積載荷重を減らしたいですし、建物高さいっぱいに住戸を配置したいですからね…。


 受水槽・高置水槽の基本的な話でしたが、ご理解頂けたかどうか…。
 次回は水槽類の法的基準や耐震基準、強度基準の変遷などを分かりやすく解説出来たらと思います。

 もう少し詳しく聞きたい事や質問・相談などありましたら、コメントでも問い合わせフォームからでもお寄せください。

※給水装置の設計基準・配水管の敷設状況・水理条件・建物規模により、採用可能な給水方式は異なりますので、必ず水道局や専門家に確認してください。

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